« 【書籍】震度0 | メイン | 【絵本】おすすめ3冊 »
保護者からの無理難題
私は読んでいなかったのですが、少し前に朝日新聞で「保護者の無理難題」というテーマで記事が書かれ、話題になっているとのこと。さっそく記事の中身を教えてもらいました。
「無理難題」の中身を紹介してみると、
管理職が挙げる「保護者の要求」(小野田正利教授の調査から)
【小学校】
○「私学受験の勉強のため1カ月休ませてほしい」
○学校からの給食費などの徴収金催促に「そんなにお金のことを言うならもう学校に行かせない」。
○校外学習中のすり傷を消毒し、学校に連れ帰ったら「なぜ医者に連れて行かなかったか」と苦情。
【中学校】
○「(任意の)検定試験に合わせ学校行事の日程を変えてほしい」
○教師の罷免要求の署名運動を自分の子どもを使い校内でさせる。
○校内でけがした生徒の通学用タクシー代を請求。
○「家で風呂に入らない。入るよう言ってほしい」
○担任発表後「あの先生は気に入らない。変えてくれ」。
○授業中に読んでいたマンガを取り上げたら、「すぐに返してやれ」と来校。
【高校】
○欠席数が規定を超えているのに、進級・卒業を要求。
○原級留置(留年)に納得せず、議員、教委に言いつける。
他にも、以下のような事例を紹介。
●教諭宅に抗議の電話
首都圏の私鉄沿線の小学校に勤める女性教諭は夜、自宅の電話が鳴ると布団をかぶる。「あ、また、あの親だ」と思うからだ。
昼休み、男の子たちのけんかを注意した日。1人の子の母親から激しい口調で電話があった。「なぜ、うちの子だけしかるんですか」。「他の子も指導しましたが……」と伝えると、「平等だったのですか」。以来、毎日のように深夜、電話が鳴る。「宿題が少ない」「通知表のつけ方が変」……。教諭は体調を崩し、病院に通う。「私がまるごと否定されているようで」
初めて会った父親にいきなり校長室のテーブルにテープレコーダーを置かれたのは、都内の中学校の男性教師だ。授業中の私語の指導をめぐって「異論があります」と切り出された。その親は教師対応のマニュアル本からチェックリストをコピーしてきていた。「教師は悪と決めてかかっていて、やりきれない」
関西の住宅地の小学校に勤務する教諭は、母親から1枚の紙を示された。見ると「1年1組 ~先生」「2年1組 ~先生」……。全学級の担任配置案だ。母親の子の学級には、力のある教師の名が書いてある。「この通りでお願いします」と親は屈託ない。
「うちの子を~先生のクラスにと希望されたことはあったが、全担任案とは」と教諭は驚きを隠せない。
最近のこういった「無理難題」に聞こえるものはめずらしいものではなく、私のまわりの事例をあげろと言われれば、この5倍くらいはあげられるわけで、学校によっては「事例集をつくろうか」などと、笑えない冗談が出るほど増えてきています。また、教師個人が、訴えられたときのための損害保険への加入も広がってきています。
ゆえに、この特集が組まれたことに全国のほとんどの教師は「やっと、とりあげてくれたか」と大きな拍手をおくっているわけで……。
でも……、なんか変だなあ……、と、しおちゃんマン的には考えてしまいました。(などと書くと、全国の教師仲間から一斉に批判をあびそうですが…)
この件は、もう少し慎重に考えたほうがいいのではないかと思ったわけです。下手をすると、教師と保護者との関係がますます希薄になってしまうことにつながるのではないかと心配しているのです。
さて、こういった保護者について、朝日新聞は次のように報道しています。
○学校や教師の社会的地位の低下。
○今の保護者の世代は上の世代と比べて、自分の子どものことしか考えない傾向が強い。
○親自身、批判されることに慣れておらず、傷つきやすい。教師から子どものマイナス点を指摘されると、逆ギレしてムキになることもある
(諸富祥彦・明治大文学部助教授:教育臨床学)
○地域で孤立し、悩みを打ち明けられない。子どもとの距離は少子化で短くなり、子どもの問題を我がことと重ねがちだ。
(嶋崎政男・東京都福生市教育委員会指導室長)
さらに現場の声として、
○問題を抱え込んでも解決しないのに、校長の裁量が大きくなり、教師が話し合う時間がなくなった。家庭訪問も消えつつあり、親とのコミュニケーションがとりにくい。
(東京都の中学校教諭)
そして国や教育委員会にとってほしい対応策としてアンケートであがってきた声は(アンケートに答えたのは管理職です)
●保護者の声を受け付け、対応する窓口を
●学校に顧問弁護士を
●保護者対応の研修を
さらに小野田教授は、以下の2点を提案しています。
(1)学校、保護者双方の言い分を聞いて調停する第三者機関の設置
(2)拡大しきった学校の守備範囲の明確化。
そして記事は、以下のように締めくくっています。
◆第三者の知恵借りる態勢を
「こうしてほしい」と求める親と、「なぜ、そこまで」という教員と。一部とはいえ、そのズレが摩擦になり、過熱して、トラブルとして発火する場合が増えている。
今の保護者は「先生は敬うべきだ」という上の世代に比べ、学校不信を抱いている人が多い。親同士や地域のつながりが薄く、我が子と向き合い、ストレスをためる。その受け皿の一つが学校になっている。これは教育問題にとどまらない。社会問題である。
保護者対応を扱った本の多くは、教員が親の気持ちに共感するよう説いている。だが、寄り添うだけでは解きほぐせない事例が増えていることも、また事実だ。そのままにしていては教員も保護者も消耗し、肝心の子どもが置き去りにされる。
トラブルを受けとめる「保水力」が学校も保護者も弱まりつつあるいま、学校医のように弁護士やソーシャルワーカーらに依頼しておき、ともに考えてもらう。両者の関係は、そうした仕組みづくりが求められる時代に入ってしまっているのかもしれない。
う~ん、さすがに新聞記者さんは文章が上手だなあ…と感心してしまいました。まさにその通りだとは思うのですが、なぜか私にはこの記事に違和感があるのです…。なぜだろう??
その違和感を一生懸命考えてみてやっとわかりました。
記事は、保護者からの声をすべて「無理難題」として一緒にしてしまっているからだと思いました。そして、保護者からの声を第三者機関にゆだねることで、教師と保護者との関係がますます希薄になってしまうのではないかという懸念が私の中にわいてきたのです。
ということで、保護者からの声をすべて「無理難題」として処理するのではなく、一つひとつ吟味していく必要があるのではないかと考えました。
たとえば、
○「私学受験の勉強のため1カ月休ませてほしい」
というのは、本市では毎年たくさんあるわけですが、それは進学塾がそのように指示しているからであって、学校はその声の出どころの進学塾にこそ相談するべきではないでしょうか。
また、
○校外学習中のすり傷を消毒し、学校に連れ帰ったら「なぜ医者に連れて行かなかったか」と苦情。
というのは、本当に「苦情」だったのでしょうか?家に帰ってから医者に連れて行ってみたら、けっこう大変な傷だったのではないでしょうか。だとしたら、学校に文句の一つも言いたくなる気持ちもわからなくはありません。あっ、苦情ですね。(笑)
だとしたらそういった声は、たとえば、養護教諭(保健の先生)の数を増やしてほしいという声にして、教師と一緒になって自治体に要求していくという方向も考えられます。
さらには、
○「家で風呂に入らない。入るよう言ってほしい」
これって、学校に対する無理難題としての要求だったのでしょうか?中学生にもなると親の言うことなどはなかなかきかないわけで、風呂に入れ、という問題だけでなく、この話題をきっかけに、思春期の子どもとどう向き合っていけばいいのか、教師は親と一緒になって頭を抱えて悩めるチャンスだったのではないでしょうか。そしてこういった悩みが多くの保護者にあるとしたら、そういったテーマで保護者会で話題にしてみる方法もあると思います。
きりがないので、事例についてはここらへんにしておきます。大切なことは、これらの声をすべて「無理難題」として片付けるのではなく、よく吟味して、逆に保護者と一緒になってその解決策をさぐっていくことだと思っています。
さて、誤解のないように書いておきますが、教師が人格丸ごと否定され、体調を崩すような、それこそ「無理難題」に対してはそれなりの対策と「仕組みづくり」が必要であることには賛成です。同時に、子育ての悩み(地域のおつきあい含む)相談のような機関があってもいいと思っています。
しかしこの記事によって、保護者の学校や自治体に対する真っ当な要求が無視され、保護者バッシングになっていかないことを願っています。
wrote by しおちゃんマン
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://shiozaki.info/mt/mt06-tb.cgi/765
このリストは、次のエントリーを参照しています: 保護者からの無理難題:
» 保護者から学校に寄せられる、無理難題の要求 from きょういくブログ
朝日新聞大阪本社web『朝日わくわくネット』2005年7月6日配信記事(『朝日新聞』2005年6月26日付朝刊掲載記事)によると、保護者からの無理難題の要求が... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年07月25日 14:17
» 保護者の無理難題 from 夢・子ども・青空
今日の朝日新聞に『保護者の「無理難題」』という見出しで大きく最近の親たちの学校に [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年07月25日 14:25
» 親と子ども from 記憶の鞄
日曜日の朝日新聞の朝刊に「保護者の無理難題」と題して、学校の先生を悩ませる困った親の話が載っていた。
保護者のあまりにも身勝手な要求には笑ってしまったが、「言... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年07月25日 20:33
» たけしさん、いけません!! from 健康・受験・法律 無料相談!!
「本当は怖い家庭の医学」という番組があります。じつはあの番組、医者の間では恐ろしく不評なんです。 まずは患者様をビビらせすぎです。頭が痛ければクモ膜下出血... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年07月26日 01:34
» 「対話」のチャンスを from うちなーのかあちゃん先生
以前記事にした「親子のハードル」の親子、Kさんママと娘のSちゃんの姿を最近みかけません。そして、とうとう夏休みに突入。昨日、なほに「Sちゃん、元気ね〜?最近見な... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年07月26日 02:02
» オマエがまず叱れ from 教師だ!文句あるか!
自分の息子が近所のマンションのガラスを割ったからって、学校に「ちゃんと指導してくれ」と、どなりこんできたIT関係の会社にお勤めのパパさん。
まずあなたが叱... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2005年10月07日 22:37
» 学校2.0 from R30::マーケティング社会時評
はてブではなぜか産経の記事だけが盛り上がっているが、朝日の記事のほうがずっと詳しいのでそちらを読まれたし。 わがママに先生困った 保護者の「無理難題」(asa [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年07月24日 00:57
コメント
なるほど。親と子、そして学校関係者。
結局それぞれの関係が薄くなっているから生まれる摩擦なのかもしれませんね・・・。
そういえば、学生の頃よく先生がうちに来ました。面倒ですが、そういった地道なことが、
摩擦を埋める唯一の手段なのかもしれませんね。もちろん、親からの歩み寄りが必要だとは思います。
投稿者 としぞう : 2005年07月25日 19:08
この掲示板をはやらせたいと思っています。よろしくお願いします。
女王の教室 掲示板です。
よろしくおねがいします
http://hidebbs.net/bbs/hrulogtpo?sw=t
投稿者 hrulog : 2005年07月25日 20:02
お久しぶりです。
Haru@tonetalkです。
大阪大の小野田正利教授の「イチャモン」研究は、去年からうちの学校で話題になっています。
彼の著作を読んでみましたが、根底にあるのは今の日本の「新自由主義」による、社会の崩壊(彼はそう書いています)、それによるもって行き場のない不満を、教師にぶつけている当面を指摘していました。
あと、シオちゃんマンのいうとおり、「無理難題」の裏にある「親の本当の要求」を分析すべきだとも書いています。
親自身がどう自分の子どもと向き合っていいかわからない中での、ヘルプの声だと読む必要があるわけです。
新聞を始め、メディアは怖いですね。小野田教授の主張とは微妙に違うところで、記事がまとめられているようですね。
あと、教師の連帯も強調していました。そうしないと、個人で批判にさらされ、つぶれてしまう。そういう学校が多いのですね。
だから、第3者の機関が必要という仮説を立てています。
長くなりました。
必要であれば、資料をお送りします。
投稿者 Haru : 2005年07月28日 00:29
shioさんへ
7月25日の「保護者からの無理難題」で取り上げられていた、当の本人の小野田正利(大阪大学教授)です。Haru@tonetalkさんが投稿してくれていたように、私のスタンスとマスコミの書き方には、ズレがあります。見出しの付け方も含めて、違いはあります。大阪版(6月27日付け)では「わがママに先生困った」となっていましたし、明らかにニュアンスが違うものでした。私はおもしろおかしくこの問題を取り上げてはいませんし、すでに10年以上前から関心をもって取り組んできました。
朝日新聞の記者とは4時間近くにわたって話しました。高橋庄太郎という記者が信用できる人だからです。しかしデスクとの関係や、私以外の取材者との関係で、あのような見出しになってしまうのです。「(親も教師も)どっちもどっちだ」と書いていた読売新聞(8月10日、親力を高める)よりは、まだ私の趣旨に近いのですが。私のスタンスをそのまま出してくれているのは、7月4日の日本教育新聞です。
むずかしいですね。マスコミの問題は。ただこの種の問題を取り上げたというのは、おそらく初めてに近いと思います。朝日新聞の中でも、相当な決断があったとのことでした。
しおさんが、関心があれば、私がどのような思いでこの「けったいな」イチャモン研究をしているか、私が何を深刻な問題ととらえているかが分かってもらえるように思います。ご希望であれば冊子『人と人が結びあえる社会であり続けるために~学校への要望、苦情 そしてイチャモン~』をお送りします。また学会で発表したデータをお送りしてもかまいません。
保護者はなぜ時として刺々しい要求の出し方になっていくのか、学校も本来は正当性をもっていた保護者の要望を「イチャモン」のように認識してしまうのか。社会全体に広がっている言ったもん勝ちの風潮(最たるモノは小泉首相のいいがかり的イチャモン解散でしょうか)とあわせて、社会構造の問題としても私は考えたいと思っています。
ご希望であればメールください。小野田正利
投稿者 小野田正利 : 2005年08月17日 17:19
>Haruさん、小野田さん
コメントありがとうございました。
報道が研究のスタンスとズレてしまったこと、よくわかりました。
大切なことは、保護者の要求を無理難題とせず、真摯に受け止めつつ協同の道をさぐっていくことだと思っていますし、私も現場でそうしています。
今の現場の状況を考えれば考えるほど、協同のスタンス以外に課題をのりこえる道がないように思うのです。
またいろいろ教えてください。
ありがとうございました。
投稿者 しおちゃんマン : 2005年08月17日 18:40
はじめまして、中学3年生の父親です。
教師の罷免要求ということで検索したら、ここにたどり着きました。長くなりますが、できれば、ご意見を賜りたいと思います。
私の子供が通う中学は、S県の数年前にできた公立中高一貫校です。従って、受験の悩みはないのですが、この数年、とある部の顧問の問題で悩まされています。
保護者の間では、顧問の罷免要求の声も出てきています。これまでいろいろと学校側にお願いや相談をしてきましたが、学校側の対応がはっきりしません。やはり保護者の無理難題として受け取られているのでしょうか?
できたばかりの中等部で、教師未経験の非常勤講師を顧問にした、学校側の配慮のなさが最大の原因だと思いますが、間違いでしょうか?
そもそも、非常勤講師に部活の顧問を任せることがあっていいのでしょうか?
授業では教えられない、物事への取り組み方、先輩後輩という関係から学ぶことなど、中学生の部活は、非常に重要な活動だと思います。
昨年度までは、部活の保護者会いわゆる父母会がなかったため、保護者と学校側の効率的な話し合いができなかったせいもあり、部活がいやで、保健室登校になった生徒もいました。
とにかく、この顧問の言動は、教育者として不適切なことが多いのです。
今年度は、父母会を立ち上げ夏の大会まで、顧問の言動を厳しく管理し、いい方向に持って行く努力をしましたが、大会後、部長副部長を2年生に交代する手続きで、3年生幹部に対して不適切な言動をし、せっかく良い方向に向かっていた部の運営を、台無しにしてくれました。
我々保護者の半年間の努力も、水の泡となってしまいました。
父母会では、部の顧問だけでも即刻降ろさせたいのですが、担当科目の授業中に子供に対して変な行動をとらないかが心配で、できることなら、講師自体を辞めさせたいです。
この講師、昨年、市のイベントで重要な役をまかされたのですが、部の運営と同じで、不手際が多く、他のStuffから苦情がでて、その役を全うできませんでした。
最近になって、このイベントの関係者から、「あんな人に子供たちを任せて、大丈夫なの?」という声が入ってきました。
学校の名誉、信頼のためにも、早急な対応が望まれますが、これでも、「イチャモン」として、片付けられちゃうのでしょうか?
具体的な名称は出しませんでしたが、大体察しはつくと思います。
(メールアドレスが公開型になっているので、でたらめなアドレスを入れてあります)
投稿者 Oppekepe : 2005年09月13日 10:00
>Oppekepeさん
コメントありがとうございました。
一言で「講師」といっても、地域によって事情が違いますので、 Oppekepeさんの地域で、講師が部活動を担当することにどのような意味があるのかは、よくわかりません。
また、その講師の人事権がどこにあるのかも私にはわかりませんので(市の職員の場合と県の職員の場合があります)、この問題をどこで話し合えばよいのかも、申し訳ないのですが私にはわからないのです。
部活動のあり方、については学校長、及び部活動をとりまとめている担当教師と……、その講師の方については、人事権のある場所で話し合う、というのが筋だと思います。
ただ、人事権のある場所に直接出向くのは現実的ではありませなんので、最初は学校長と納得のいくまで……、場合によっては本人も交えて話し合うことだと思います。
投稿者 しおちゃんマン : 2005年09月13日 14:58
サイン・インを確認しました、 さん。コメントしてください。 (サイン・アウト)
(いままで、ここでコメントしたとがないときは、コメントを表示する前にこのウェブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)